『フォスフォレッセンス』ができるまで。


「いつか自分のお店を」
そう思ってる人は、少なくないと思う。
私も学生時代から何度か三鷹を訪れていくうちに、いつかここでお店を、と夢を見始めたわけですが
その夢が具体的にどう形になっていくか思い出してみると、何百万貯まったら、とか言ってるうちはただ日々が過ぎていくだけでした。
実際にお店を開いてたり、この人のスタイルに憧れてる、という人に会いにいって、お店やその人の空気に触れることによって
得るものが私の場合、とても大きかった。 
その人の持っているオーラパワー(マネーの虎ネタね)に触れて、つながる強い決心。
そう、近頃私のまわりでよく目にする言葉、シンプルだけどこれが源のすべてだと言える「強い決心」
それ1本でここまできた、というかんじ。
もちろん、現実には、まずお金の問題、そして開業計画書や税金、物件などがからんでくるのだけれど
お店を開くのは、難しくないと思う。 開業後  続けていくことが一番大切なことで、難しいこと。
とりあえずここでは、お店を開くまで、のことだけに触れていくことにする。
まず現実的なこと、開業資金などから書いて、その後 ソフト面にいきましょう。
資金まで書くのは赤裸々?とも思いますが、私がお店を開く際に、いろんなサイトを参考にしましたが
一番知りたいのが、具体的な数字でした。 私のような小資本ビジネスを考えている方の参考になれば幸いです。
おおまかなもののみになりますが、開業資金は180万です。
内訳は、物件所有費100万 内装工事費35万 外装工事費15万 什器、本棚、インテリア、備品代、仕入れ代、雑費で約30万
家具は、ほとんど中古家具。古道具屋巡りで購入しました。 代官山古道具店や目黒のOTSUファニチャー、パルコ吉祥寺店などを利用。
あと世田谷ボロ市で、古時計や豆本棚にするオルゴール。 アクセントに青山の書斎館でミシンや鉛筆削り、万年筆などの置物を。
本の初期仕入れ費はゼロです。いつかお店を、と考えていたので、書店員時代から社割でこつこつ本を買っていました。
なので、今はかなり本の種類が私の趣味にかたよってしまっています。 その分状態は良いものが多いですが、店が狭いので量は少ないです。
最初は「ある三十路乙女の本棚」が特徴、ということで(笑) あとは、太宰治コーナーですね。こちらは力を入れていきたいです。
初回はともかく今後は、ニーズにあったものを仕入れていきたいと考えています。
資金の話に戻ります。
自己資金150万と、東京都の創業者支援制度の融資を利用して運転資金にあてています。創業支援制度の情報は、主にネットと、京都時代 
商工会議所主催の無料開業者向けセミナー「創業塾」に参加して得ました。 
国金に申し込んだもののふられてしまった時も、「強い決心」があったからあまり落ち込まなかったです。
私の計画が、現実的でなかったのが悪かったんです。その後は前向きに、再度開業計画書を練り直しました。
なんとか東京都の方でOKが出て、お店を持つには少なすぎるくらいの資金で開業できるメドが立ちました。
店舗がわずか5.5坪と小さいのと、駅からかなり離れてしまったことが安くあげられた大きな要因ですが(というか資金が少ないのでそれしか道がない)
図書館の隣なので本好きな人が見つけてくれるのでは?という点と、お店の前に桜の木があることが決定打となり
今の物件に決めました。駅前のように人通りが多く、回転率が良い、ということはないですが、
本好きな人がゆっくりするのにはベストな場所だと思います。窓が大きいので、街の風景も、よく見え
その分私たちの様子も丸見えで、お互い嘘つけないぞ、ってかんじが逆にいいと思うのですが、
お客様の中には、顔がさすのでちょっと恥ずかしい、という方もおられました。なにか工夫をしようと思っています。
本当に街角にあるので、「あの角の小さな古本屋さんね」と近所の人々に愛されたい。「街の灯」になりたい
時間はかかるかもしれませんが、ゆっくりとこの街の風景に、歴史にとけこんでいきたい。
そんな考えでお店を開くなら、今の店は理想のカタチだと思います。 
ただ、やはり食べていかなくてはいけないので、商売が成り立たなくてはいけない。
どう理想と現実をつなげていくかが今後の大きなテーマですね。
お店に入るなり、「これ、儲けようとかまったく考えてないお店ですねえ」と言われるお客様がいて
「はい。考えてません」って笑顔で答える私もな〜。
「やっていけそうにないですねえ」ってしょっちゅうお客さんに心配されるので・・・(笑)。
せめて安心して通っていただける雰囲気はかもしだせてないとなー、と試行錯誤しております。
本当は、玉川上水沿いの風の散歩道あたりにお店を開くのが夢でした。
だったらなぜもっと資金をためて、着実に計画しなかったのか? とお思いになるかもしれません。
もう待っていられなかったのです。それとタイミングですね。
あまり三鷹のことをよく知らないからこそ、こわいもの知らずでスタートできる、っていうのもありますし
京都にいても心は「まだ見ぬ自分の店IN三鷹」になりつつあったので、思い切って飛んできました。
では、その「強い決心」の内側について語ります。

18の時、初めて東京に来て以来、とにかく東京に住みたくてたまらなかった。
単にミーハーなだけなのかもしれないけど、とにかく「東京に住みたい」という思いは、
私の中でずっとくすぶっていた。
学生時代から太宰研究も兼ねて、桜桃忌やらで三鷹に来ていて、
その時、ボヤーっと東京で住むなら三鷹かな、と思い、=店を出すなら三鷹、とひそかに決心していた。
しかし多忙な書店員時代に突入し、店長としてスタッフと,お店をどう良くして行くかのおもしろさ、難しさも経験し
ずっと京都でやっていくのかな、と感じ始めていた頃、今の主人と出会い、再び太宰文学を追求したくなり、三鷹への思いも再燃。
そんなある日のこと、エムカンの松浦弥太郎さんのトークの催しがある、と知り、出向くことにする。
松浦さんの本屋としての斬新なスタイルにはとても憧れていたし、雑誌等で目にする文章が好きだったので、楽しみにしていた。
実は、「強い決心」という言葉も、松浦さんが最近書かれていた言葉で、私にとってはタイミング的にビンゴだったので深く心に刻み込んだ言葉なのです。
その催しのトーク中、司会者の女性が「この中で本屋になりたいと思ってる人はいますか?」と言われた時、
私の手は自然と上がっていた。 けっこうたくさん人がいたのだけど、手をあげたのは私ひとりだけだった。
自分でも、すごい勇気!と驚いたけど、 心の底から願うことがあれば、いつ流れ星が現れても、願い事をとなえられる、
そんなかんじに近いと思います。その後、松浦さんはしずかに話してくれました。
「路上にダンボールをひいてでも、それが自分の店となる」と。
帰り道、、希望にあふれながら見上げた夜空の色、星の輝きは、今でも絵のように焼きついています。
その後、「手をあげたあの瞬間から、もう本屋は始まっている」という内容のお言葉をいただき、私の強い決心につながりました。
もし私がお店を開いたら、必ず行く、とも言ってくださり、その約1年後の開店の日に、本当にお店にやってきてくださいました。
「フォスフォレッセンス」は開店一日目にして最高のプレゼントをもらったのでした。
そして、この店をずっと続けていこう、というあらたな強い決心が生まれたのでした。

本屋とカフェが合体したお店がしたいなら、本があるカフェを見に行こう
と、2001年の夏、東京にでかけました。
いつもダ・ヴィンチの連載を楽しみに読んでいる北尾トロさんの夏限定ブックカフェ、
渋谷のNON,下北沢のオーディネール、西荻のハートランド、原宿のcafe&books
どこもすごくいいかんじで、それぞれの個性も光っていて、いい時間を過ごせました。
やっぱり本がある環境でお茶を飲むっていうのは、自分にとってリラックスできる場になるんだ、と再確認しました。
そういう時間の心地良さを体感してることが、お店を創るヒントになってくる。
あと、何人かオーナーさんとお話できる機会もあったのですが、
「いつか三鷹にブックカフェを開きたいんです。」と打ち明けると、
「いいじゃないですか。」という答えがいつも返ってきた。 オーナーさんたちのオーラパワーを
さんさんと浴びて、私はめちゃめちゃやる気になっていた。
もう明日からもはじめたい気分だった。
最後の日、ふと時間ができたので、ちょうど読んでいた嶽本野ばら著「カフェー小品集」にでてきた
「ミカワ喫茶糸きりだんご」に出かけることにした。
そこのオーナーの木村さんといろいろ話しをすると、
「あなた、人がよさそうなので、騙されないようにしないと」とか
「お店を開くには10年早いんじゃない」と、(あくまでやさしく、)はじめての反対意見でした。
お店を続けていくのは大変なこと、というお話をいろいろしていただき、背筋がピンと伸びる思いでした。
「でも、お店を続けていくと、歴史ができるの」
そう、私が一番聞きたかった答えを一言でポンと出してくれた気がしました。
お客さんに鍛えられながら、自分も店も育っていく。
オーナーさんたちから伝わってきた情熱が自分の中でヒート状態の時に、現実的な話も聞けて
最後に答えがポンと出る。自分の中で、種から芽が出た、みたいな気がしました。
根本に強い決心があったから、京都に帰っても水を絶えず与え 茎にすることができた、という感じです。

あと、お店を出したら、大好きな雑誌、「MUTTS]に載りたい。という夢がありました。
読者参加型手作り感覚のこの雑誌が大好きで、毎回楽しみに読んでいました。
残念ながら休刊になってしまいましたが、私の中では永遠です。
特にカフェ特集には触発されました。早くオーナーになりたくて&東京に住みたくて我慢できなくなって
資金も少ないのに開店準備始めちゃったクチです。でも逆に言うとオーナーになれたのはマッツのおかげかも・・
自称「マッツっぽい人」ですから、私♪

そして現在、東京にやってきてこうして店を営んでいる。
自分が種をまいて生み出したものがこんなにかわいいとは・・
大きな木になれるよう、乾くことなく 訪れた人にも潤いを感じてもらえるような場所になっていけるよう
日々を大切にしていきたいです。

2002年2月19日 火曜日  店主

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