オープン1年を経て

一年はたたないと認めてもらえない部分、正直それはあったと思う。
何度も言うようにまず3年はたたないと、と思っているのだけれど
「正直この場所では無理だと思ってたから、1年続いたら入ってみようと思って来ました。」
というご近所さんがいたり、
「1年前の2月からあったの?うっそー! 毎日前を通ってるけど全然気がつかなかったよ。」
っていう方もいたり、
「すぐつぶれると思ってた。」「宝くじにでも当たって余生を道楽で過ごしてると思ってた」
というのがまあ一番多い声かな?
ご近所さんに来てもらったりお店を知ってもらうためには、チラシのポスティングなどをするのが
良かったと思うのですが、とゆーか普通はオープンの時に必ずといっていいほどやりますよね、
それを宣伝費にまわすお金の余裕がまったくなかったのでやらなかった。
ラッキーなことに変わったお店だから雑誌や書籍、テレビの取材までやってきてくれて
1年目の宣伝費はほとんどタダでまかなえたのですが、
おかげさまで本好きな方、太宰治を好きな方には知ってもらうことができた。
その部分には満足しています。 でも本来の目標である「街の人、近所の人に愛される店」
という点でちょっと努力を怠っていたのではないかと感じるのです。
そこで採算は度外視だけど、表に「2冊で100円コーナー」というのを設けてみたのです。
お店の前は何度も通るけれど、中でゆっくりと本を選んだり、コーヒーを飲んだりする時間がない、
という人も「え?やすいー、ちょっと見てみようか」と関心を持ってくださるように思ったのです。
結果これが当たって、そのコーナーはどんどん回転するようになりました。
特に近所の人たちがよく見てくださっているようで、嬉しく思っています。
「お店に入ってみたかったけど、ずっと迷ってた。表にこういったコーナーがあるとお店に入りやすくなるわ」
と言ってくださった方もいました。 売り上げ的にはほんとに雀の涙ですが、手ごたえを感じています。
もちろん忘れてはいけないのは、うちの店を気に入ってくださって遠方からこんな不便な場所まで
わざわざ足を運んでくださるお客さんが存在するという喜びです。
たとえ三鷹内でお店が移転することがあってもそういう方はずっとお店に来てくださる、
いわばフォスフォレッセンスをずっと記憶してくださるお客さん、になってくださる気がします。
そういうお客さんを増やしていく努力も続けていきたいと思います。
そしてあまりにも遠方で、サイトでしかお店のことがわからないけれど、いつも応援してるよ、と
言ってくださる方の存在も忘れません。フォスフォレッセンスのお客さんです。

最近、ご近所の方がお亡くなりになり、蔵書をひきとってほしいという依頼があり
たくさんの本がうちの店にやってきました。 その本の持ち主だった方の奥様が
本を捨てようとしていたところに、ちょうどうちのお店のお客さんが居合わせていて待ったをかけたのです。
「私の知ってる古本屋さんへ持っていった方が本のためにもなるから、本を捨てるのはちょっと待って」と。
そしてその亡くなったご主人の蔵書は、ゴミとなるのをまぬがれうちの店にやってきたわけですが
本を1冊1冊磨いていて発見がありました。この持ち主の主人は、本に関連記事をはさまれる習慣があるようで
たとえばライシャワー自伝にはライシャワーの来日時の新聞記事の切り抜きが、シベリヤ捕虜関係の本にはその関連記事切り抜きが
はさまっていました。 几帳面な方のようで本もとても大切に扱われていて状態の良いものが多かったです。
「のらくろ自叙伝」の中からのらくろの切り抜きがいっぱい出てきた時は、こうゆうお茶目な面もあるのだ、と思わず微笑んでしまいました。
(おすすめコーナー参照)この主人は、まさに日常生活の中で本というものに対して愛情を注いでおられた方なんだ、
とこれらの本の手触りから伝わってくるものがありました。 ゴミとなってしまうのだけは避けたい、小さな古本屋の片隅でいいから佇み
誰かこの本を必要としてくれる人の手へせめて運んでほしい、というご主人の声が虫の知らせとなって
うちの店のお客さんを介し、これらの本はここへやってきたのではないか、なんて思ったのです。
うちの店にしてはちょっと固めの歴史関係の本が大半ですが、本との縁、ご近所の方との縁を大切にし、
これからも共に店を創造していけたら、と思っているので、すべての本を置いています。
一度誰かの手に渡り、大切にされていた跡がついている本には物語があります。古本を扱う時、そこまで想像し、拡げていく力を身につけたい。
私の「古本」道はまだはじまったばかりで未熟な点だらけだけど、大きすぎるやりがいに打ち震えています。
本に息を吹きかけ生き返らせることができるのか? をテーマに、さまざまな出会いを大切にして店を続けていきたいです。

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