フォスフォレッセンスの大きなガラス窓から見える風景 その1

春、夏、秋、冬、とやっと四季をひとまわりしました。
春には桜、新緑から夏の夜、そして枯れ葉舞い落ちる秋、そして真っ白な雪にすっぽりと覆われる冬、
というすばらしい光景にとても感動させられました。
でもこの窓から見える一番の主役は風景ではなく、人だと思う。
窓のところに本を陳列しているのですが、ちょうど子供たちの目線に本の表紙がくるような高さになっているのです。
いろんな本を瞳をキラキラさせて見つめる子供たち、中に人がいたって平気で、素直に反応しているその表情、
そんな姿に出会うたびにこの場所で本屋を開けた喜びをつくづく感じます。
先日、仕入れた本にアンパンマンの絵本がありました。
うちの在庫の中での絵本といえば新書館のビジュアルのきれいなものとか、表紙を書いてるイラストレーターさんが好きだから
仕入れた、とかそんなかんじのものが主なので、アンパンマンの絵本は正直死に筋扱いに近いものがあったのでした。
ある日のこと、やなせたかしさんの詩集を面にしていたら問い合わせがあったか売れたかなにかで、そこのスペースがぽかんと空いてしまった
のです。次の用事もあったのでなにげなく穴埋め、といったかんじでやなせつながり、で例のアンパンマンの絵本を
置いてみたのでした。 するとお店の前を通り行く子供、赤ちゃん、みんな反応して
「あー!アンパンマンだー!」って。もう大人気なんですよ。 で、速攻で売れてしまったのですが、その後も
「ここに置いてあったアンパンマンの本はもう売れたのですか?」とお母さんたちから問い合わせ続出。
アンパンマンはやっぱりみんなのヒーローなんだ、とつくづく感じ、あ・・・と昔のことを思い出しました。

書店員時代、まだ社員になって間もない頃、児童書を担当していた時期があったんです。
時々フェアを組んで展開するのですが、文芸書担当希望1本だった私は、ちょっとセンス良さげな
ネイティブアメリカン絵本フェアとか、イタリア絵本作家フェアとかビジュアル重視で気取っていて実際出版社の営業さんにも
「いつもハイセンスなフェアをしている。」と誉められたりしていました。それを見た店長に
「児童書担当なら、もっと子供が喜ぶような、子供が欲しいと思うような本で棚を使え。」って渇をいれられました。
想像力がとぼしくて、自分のことしか考えられなかった未熟な頃の話です。
アンパンマンの件で忘れかけていたことを思い出せて良かったです。
私が新刊から古本へ移ったのは、第一には自分のお店を持ちたいから、というのがありますが
新刊の時はレジで買い手へ本を売ったら終わり、それも無数に。そして良い本にも関わらず期限のため返品する本も無数にある。
売れた本についてはそこの次の段階から本がどのように人々に扱われ、また旅していくのか、本に関わる物語
を想像するのが楽しくなり、もっと数は少なくていいから1冊1冊と深く本と関わっていきたいと思うようになったから。
今のお店のような形態だと、どうしても自己満足になりやすい。多少はいいと思う。
こっちのペースにぐいぐい巻き込む、くらいの世界をつくってやる!って気合はある程度は必要。
でも本のコレクターの部屋を喫茶店にしてるのではなく、古本屋なのだから飾って楽しむのでなく、
人の手に渡って、喜ばれて、の本たちを扱ってる、ってことを忘れないでいなければ・・と再確認しました。


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